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2024.09.23
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レーザートラッカーとは、測定対象に接触するターゲットに向けてレーザーを照射し、反射したレーザーを受け取ることで対象物の座標値を読み取る測定機です。レーザートラッカーは三次元測定機の一種で、三次元の座標値を取得することで対象物の寸法や立体形状などを正確に測れます。本体を動かしながら測定できるため、数十メートル以上の巨大な対象物を測定することも可能です。当記事では、大型機械や航空機などの測定に欠かせないレーザートラッカーについて、概要や測定方法、メリットなどを詳しく解説します。
三次元測定機の一種でもあるレーザートラッカーは、従来の測定機では難しかった巨大な対象物も正確に測定できるため、大型機械や航空機などの測定に欠かせません。ここでは、そんなレーザートラッカーの概要について詳しく解説します。
レーザートラッカーは、三次元測定機の一種です。三次元測定機は英語で「Coordinate Measuring Machine」といい、略して「CMM」と呼ぶ場合もあります。CMMは、レーザーや光を照射したり、プローブと呼ばれる接触子で触れたりすることで座標値を読み取り、対象物の立体形状などを測る測定機です。
レーザーや光によって測定するCMMを「非接触式」、プローブで直接触れて測定するCMMを「接触式」と言います。一方、CMMの一種であるレーザートラッカーは、測定対象に接触するターゲットに向けてレーザーを照射し、反射したレーザーを受け取ることで対象物の座標値を取得する測定機です。
レーザートラッカーは、対象物に接触するリフレクタと呼ばれるターゲットに向けてレーザーを照射し、反射したレーザーを受け取ることで対象物の立体形状などを測るCMMです。一般的なCMMに比べ、レーザートラッカーはより大きな対象物も測定できるという特徴があります。
「門型・ブリッジ型」や「アーム型」などの主要なCMMが数メートル程度の測定範囲なのに対し、レーザートラッカーであれば数十メートル以上の対象物も正確に測定することが可能です。また、ベストフィットという手法を使って本体を移動しながら測れるため、遮蔽物がある場合やより大きな対象物を測りたい場合も正確に測定できます。
測定原理は一般的に、三角距離方式などによって求めた発光源からターゲットまでの距離情報と、エンコーダーなどによって測定したレーザーの発光角度情報を組み合わせることで、対象物に接するターゲットの中心座標を求めます。角度情報は、水平方向と垂直方向の2方向を測るのが一般的です。本体はレーザーに追従するように動き、水平方向および垂直方向に回転することで、ターゲットに反射したレーザーが受光部に当たるように作動します。リフレクタの内部は鏡面状になっており、どの角度から当たっても必ず中心からレーザーを反射する仕組みです。形状は真球で、必ず中心から反射するレーザーによって中心座標がわかるようになっています。
レーザートラッカーは、ターゲットから反射したレーザーに追従するように発光部・受光部が動くため、トラッカー(tracker:追跡プログラム)と名付けられました。レーザーの反射によって測定するのが基本ですが、対象物や機種によって「接触式」と「非接触式」を使い分けることも可能です。ここでは、レーザートラッカーの測定方法を解説します。
「リフレクタ測定」は、基本となる測定方法です。前章でご紹介した、レーザーを用いた測定方法がリフレクタ測定に当たります。改めて説明すると、リフレクタと呼ばれる手のひらサイズの球体を対象物の測定したい箇所に接触させ、本体から発せられたレーザーがリフレクタに反射し受光部に戻ることで、リフレクタの中心座標を把握する方法です。リフレクタ単体で測定することももちろん可能ですが、リフレクタホルダーと呼ばれる補助アイテムを活用することで、測定の幅が大きく広がります。リフレクタホルダーにはさまざまな形状のものがあり、適切なものを使い分けることで従来は難しかった穴の位置や形状、円錐のようなエッジ形状などを測定することも可能です。
「プローブ測定」はリフレクタ測定と同様、対象物に直接触れて測定する方法です。接触式プローブを接続し、対象物の測定したい箇所に直接触れることで座標値を取得します。小型軽量なワイヤレスプローブは取り回しがよく、複雑な対象物も効率よく測定することが可能です。プローブさえ触れられれば測定できるため、リフレクタでは難しい深穴や死角なども測定できます。プローブにはさまざまな種類があり、用途に合わせて最適な形状のものを選択するのが重要です。直接触れて測定するため精度が高い反面、柔らかい物や変形しやすい物は正確に測れないため気をつけましょう。
「ハンディスキャナ測定」はレーザースキャニングとも呼ばれ、レーザーの照射によって非接触で対象物の座標値を取得する方法です。測定対象に沿って手持ちのハンディスキャナを動かすことで、対象物の3Dスキャンデータを取得できます。スキャナにはさまざまな種類があり、求める精度や対象物の材質に合わせて最適なものを使い分けることが重要です。ハンディスキャナを手で持って動かすのが基本ですが、ロボットに取り付けてスキャンを自動化できるモデルもあります。ただし、黒い物や光沢のある物など、レーザーを吸収したり反射したりする対象物は正確に測れないため気をつけましょう。
レーザートラッカーはCMMの一種ですが、その特徴や原理は「門型・ブリッジ型」や「アーム型」といった一般的なCMMとは大きく異なります。特に、本体とターゲットが分離しており、自由に動かして測定できるのは重要な特徴です。ここでは、レーザートラッカーのメリットについて解説します。
本体とターゲットが分離しているレーザートラッカーは、大きな対象物も測定できるのがメリットです。CMMとしてはもっとも一般的な「門型・ブリッジ型」は、本体に備え付けのテーブルに載る物しか測れないため、大きな対象物は測定できないケースもあります。据え置き型では比較的測定範囲が広い「アーム型」であっても、アームの可動範囲内しか測れないため注意が必要です。一方、レーザートラッカーはレーザーさえ届けば測れるため、巨大機器や航空機など大型の対象物も正確に測定できます。一般的なCMMの測定範囲は数メートル程度に限られますが、レーザートラッカーは数十メートル以上の対象物を測れるモデルも少なくありません。
据え置き型のCMMとは異なり、持ち運んでどこでも測定できるのもレーザートラッカーのメリットです。本体のサイズはモデルによって異なりますが、手で持てるようなサイズのものも少なくありません。例えば、サイズが大きく室内に入らないような巨大な対象物であっても、持ち運べるレーザートラッカーであれば測定できます。
また、据え置き型のCMMは専用の測定室で使用するのが原則ですが、レーザートラッカーは持ち出して現場で測定することも可能です。また、ベストフィットという手法で本体を動かしながら測れるため、遮蔽物がある場合でも測定を続けられます。
汎用性の高いSTL(Stereolithography:光造形法)というファイル形式で対象物の立体形状をデータ化できるため、設計時に作成した3D CADデータと容易に比較できます。測定で取得したデータと設計時の3D CADデータを比較することで、製造誤差を可視化することも可能です。
なお、3D CADとは「3 Dimensions Computer Aided Design」の略で、日本語では「三次元コンピュータ支援設計」などと訳します。一般的には三次元設計支援ソフトウェアを指し、物の形状や構造を直感的に把握できることから、立体物の設計には欠かすことのできないツールです。
一般的なCMMには難しい大きな対象物も測定できる、据え置き型のCMMとは異なり持ち運んで測定できるなど、レーザートラッカーにはさまざまなメリットがあります。しかし、導入するにはいくつかの注意点があるのも事実です。ここでは、レーザートラッカーの注意点を解説します。
レーザートラッカーにはさまざまな種類があり、モデルによって測定範囲や精度、測定できる対象物の大きさが異なります。そのため、求める精度や測定の目的、測定したい対象物に合わせて、最適なモデルの使い分けが必要です。また、CMMに比べるとはるかに広い範囲を測定できますが、レーザーが届かない範囲は測定できません。レーザーが届かない場合は、本体を動かす必要があります。また、遮蔽物がある場合や死角になっている場合でも、プローブ測定やハンディスキャナ測定を組み合わせることで、比較的簡単に測定できるかもしれません。
レーザートラッカー自体はコンパクトなモデルも多く、持ち運んでどこでも自由に測定できます。測定範囲が広く、さまざまなサイズの対象物を測れますが、測定対象の周囲には十分なスペースが必要です。なぜなら、大型の対象物を測定する場合は一方向からだけでは測れない場合もあり、本体を移動させながら測定しなければならないケースもあるからです。本体を自由に動かせる環境でないと、正確に測定するのは難しいでしょう。持ち運べるコンパクトなモデルであれば設置のスペースは必要ありませんが、測定には十分なスペースが必要だということを覚えておきましょう。
大型の対象物を測定するケースも多いレーザートラッカーは、温度変化や歪みの影響を受けやすいことも覚えておきましょう。レーザートラッカー自体の注意点という訳ではありませんが、大型の対象物は温度変化に伴う熱膨張や、歪み・反りの影響を受けやすいため注意が必要です。
例えば、大型の対象物は温度管理が難しいケースもあり、測定中の温度変化は測定誤差に直結します。温度補正できるモデルもありますが、測定途中に温度が変わってしまうと補正が効きません。また、大型の物は小型の物より歪みや反りが生じやすくなります。歪みが大きいと測定の方法によって測定結果が変わってしまうため、大きな対象物を測定する場合は特に気をつけましょう。
ここまで、レーザートラッカーの概要や測定方法、メリット、注意点などについて解説してきました。CMMにはさまざまな種類があり得意不得意も異なるため、用途に合わせて使い分けることが重要です。最後に、レーザートラッカー以外の三次元測定機をご紹介します。
「3Dレーザースキャナ・3Dスキャナ」は、レーザーや光を照射し対象物の座標値を取得する測定機です。レーザーを使用するためレーザートラッカーと混同している方も少なくありませんが、これらはデータの取得方法が異なります。レーザートラッカーは前述の通り、ターゲットに向けてレーザーを照射し1点ずつ座標値を取得する測定機です。
一方、3Dレーザースキャナ・3Dスキャナはある種のパターン光を照射することで、対象物の輪郭形状を点群データとして取得します。対象物に直接レーザーや光を照射するため、黒い物や光沢のある物などレーザーや光を吸収したり反射したりする対象物は測れません。レーザートラッカーは対象物に接するターゲットにレーザーを照射するため、これらの対象物も正確に測ることが可能です。
「門型・ブリッジ型」は、門のような構造にプローブと呼ばれる接触子がついた形をしており、対象物に直接触れて測定する接触式の測定機です。据え置き型ではもっとも主流の三次元測定機で、CMMというと「門型・ブリッジ型」を指すこともあります。対象物に直接触れて測定するため精度が高く、自動車部品や航空部品といった超精密加工には欠かせません。
ただし、基本的には備え付けのテーブルに載る物しか測れないため、大型の対象物は測定できないケースもあります。「門型・ブリッジ型」を大きくした「ガントリー型」というCMMもありますが、広大な設置スペースと膨大なコストが必要です。一方、持ち運んで使えるレーザートラッカーであれば、測定室に入らないような巨大な対象物も現場で測定できます。大型の物を効率よく測りたい場合は、レーザートラッカーがおすすめです。
「アーム型」は、多数の関節がついたアームを用いて対象物の座標値を取得する測定機です。多関節のアームは可動域が広く、「門型・ブリッジ型」より測定範囲が広いという特徴があります。従来のCMMより小型軽量のモデルも多く、運搬や設置が容易なのも特徴です。もともとは接触式が主流でしたが、近年では接触式にも非接触式にも対応できるモデルも増えています。
また、大型の対象物も効率よく測定できる反面、機械的構造により測定誤差が生じやすい点には注意が必要です。なお、比較的測定範囲の広い「アーム型」であっても、アームが届く範囲しか測れません。一般的な「アーム型」は数メートル程度の測定範囲ですが、レーザートラッカーは数十メートル以上の対象物を測れるモデルもあります。大型の物を高精度に測定したい場合は、レーザートラッカーがおすすめです。
「マルチセンサ測定機」は、複数のセンサを一つの筐体に内蔵した測定機です。接触式プローブと非接触式レーザーを組み合わせることで、従来は難しかった対象物も正確に測定できます。例えば、接触式が苦手な柔らかい物や変形しやすい物、非接触式が苦手な黒い物や光沢のある物でも、正確に測定することが可能です。複雑形状の評価や高精度の測定に用いられることが多く、精密部品や自動車部品、電子部品、医療部品、プラスチック部品など、さまざまな分野で活用されています。
ちなみに、測定範囲については従来のCMMと変わらないため、より大きな対象物を測りたい場合はレーザートラッカーがおすすめです。レーザートラッカーと「マルチセンサ測定機」は用途がまったく異なるため、目的に合った測定機を選択しましょう。
今回はレーザートラッカーについて解説しました。レーザートラッカーは、三次元測定機の一種です。三次元測定機はCMMとも呼ばれ、三次元の座標値を取得することで、対象物の寸法や立体形状を正確に測れます。レーザートラッカーには3つの測定方法があり、組み合わせることで効率よく正確に対象物を測ることが可能です。
さらに、レーザートラッカーだけでなく、CMMにはさまざまなモデルがあります。それぞれ得意不得意が異なるため、対象物に合ったCMMを選択することが重要です。